とりわけ、古今東西の武将をモデルにした物語は面白い。
塩野七生著「ローマ人の物語」の愛読者もおられることと思います。
「一九九一年の一月であったか、空爆によってはじまった湾岸戦争も、地上戦に突入するのはもはや時間の問題と、全世界がかたずをのんで見守っていた頃のことである。」と、彼女は、CNNの実況放送を南イタリアのカンネの平原に立ちながら伝える放送記者を描写します。
その「放送記者は、テレビの画面に映しだされた戦況の展開をあらわす図を指し示しながら、ハンニバルがどのような戦術を用いて、数では優勢だったローマ軍を破ったかを説明していった。
だが、それを終えた後で、次のようにつけ加えたのである。『カンネの会戦は、戦史研究では欠くことの許されない戦闘(バトル)であるために、陸軍士官学校ならばどこでも学習します。
ということは、シュワルツコフ(注:多国籍軍の司令官)が知っていると同じに、イラク側の将軍たちも知っているということです』」(ローマ人の物語 ハンニバル戦記[中]・新潮文庫99~100頁)。
日本人は、戦後、日本国憲法9条に(侵略)戦争放棄の条文をもった故か、戦史に学ぶことが少ないようです。
塩野さんの物語が活写する外国に比べて、殊にそうです。
しかしながら、そう悲観することもありません。
日本にも、長い合戦の歴史があり、そこには人間ドラマがあり、学ぶことが多いからです。
織田信長の家来の武将羽柴(=豊臣)秀吉が、鳥取城に籠城する吉川経家を攻めたことがあります。
城主吉川経家は、城兵の食料となる米、すなわち兵糧米さえ貯え、武器弾薬を備え城兵ともども籠城すれば、城は落ちないと考え、籠城戦を戦います。
籠城のためには、籠城する人々のために食料が必要です。
そこで、近隣の村々から、米を徴集しようとしましたが、米は、集まりませんでした。
秀吉によって、事前に米が買い占められてしまっていたからです。
鳥取城に籠城していた城兵や百姓が、米を城から持ち出し、高く売り払った例もあると云います。(小和田哲男・名城と合戦の日本史91頁以下参照)
隣国中国は、厄介な国です。
尖閣をはじめ諸々の軍事・外交案件を適切に処理しなければなりません。
日本の政治家や要路の人々は外交戦において押され気味のように一介の国民からは見えます。
過日、雑誌に対中国との外交に関して、見守るのではなくて、戦略的に中国を締めあげるべきである、と次のような趣旨の論稿が載りました(ウィル2013年8月号加治伸行氏の論説)。
「中国の最弱点は食料問題、厖大な量の小麦を輸入している。
そこで、日本は世界の小麦市場において小麦を買いつける。
それも大量に買い付ける、高くても良いからどんどん買い付ける、それも円決済で。
そうすると小麦の値段が上がる、円が不足すれば日銀券(=円)を印刷する、そうすると円は安くなる、小麦を売った国々は円を売りドルを買う。
日本は、買い付けた小麦を、現物で給付する、途中でねこばばされても最末端の人々の口に入る量の小麦を給付するのである。
一方、後進国や中国へのODAはすべて取りやめる。
中国は、小麦の値段が上がっても、小麦の買い付けを止めるわけには行かない。
国民を飢えさせるわけには行かないからである。
餓えれば、暴動が起こってしまう。この策は、期せずして円安ドル高になる。
そして、後進国には国連において日本を支持し投票することを約束させる。
当然である。」
日本の国民の多くは、現状のような日本と中国の今ある関係を是とするでしょうか。
筆者は、寛大なる国民がいるからこそ、現状の日中関係がある、としか見えません。
秀吉が鳥取城に籠城する吉川経家を降参させるに際し、上記のような兵糧攻め作戦を用いたことは、要路にある人達は知っていることでしょう。
しかし、そのような知識があることと実際に使えることとは別問題です。
日本のリーダーたちには、政治リーダー(官僚や政治家のこと)達は、民間人に負けずに、歴史を勉強したら、もうひと踏ん張りして、秀吉の事例に倣い、中国との交渉においては、加治氏の提言を実行してもらいたいものです。
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