「交渉」は、個人対個人、個人対団体、団体対団体、国家対国家など、一般に広く用いられる。
「談判」は、もめごとなどの決着をつけるための話し合いをいう。
したがって、両者の利害が相反することが多く、喧嘩腰の感が伴うのが普通。
「折衝」は、組合対会社、国家対国家など、公の場合に用いられることが多く、個人対個人、個人対団体などの場合にはふつう用いられない。
また、多く、利害の食い違う当事者同士が要求などを出し合い、妥協点を求めるために話し合うような場合にいう。(新装版 使い方の分かる類語例解辞典 小学館)。
交渉、談判、折衝、何れの場合であってもこちらの要求をいかにして相手方にのませるか、またいかにして相手方の要求をどのようにしてのみこみ、話し合いをまとめ上げるかが重要です。
それらには、必ずしも、勝ち負けということはありませんが、交渉する主要目的が通った場合には、勝ちといってよいでしょう。
だから、交渉する際には、必ず交渉によって、獲得する「目的」を決める必要があります。
Aさんが、幸田朗・左右田左右兵衛弁護士の下にやってきました。
「先生、先生!Bというやつはけしからん奴だ!人の女房を寝とって、不届き千万だ。慰謝料を取って下さい。」
というのです。
慰謝料はいくら位請求したいのか、と聞きますと、500万円だ、というのです。
そこで、左右田左右兵衛弁護士は、早速、Bさんと会いました。
左右田弁護士がBさんに会って慰謝料額金500万円を請求すると、「はい、分かりました。500万円ですね。
すぐにでもお支払いいたしましょう。私が悪かったのですから。」というのです。
左右田弁護士は、Aさんに「Bさんが、慰謝料500万円を支払うことを承諾した」旨話しました。
しかし、Aさんは納得しませんでした。500万円ではだめだ。1、000万円でなければ絶対いやだ、と言い張って左右田弁護士の話を全く聞きません。
左右田弁護士は、困り果て、Aさんの言うとおり、慰謝料1000万円でなければいやだ、といっていますので、食言するようでもうい訳ないが、1000万円請求したい旨、請求額を増額しましたが、勿論、Bさんの受け入れるところとはなりませんでした。
やむなく、左右田弁護士は、調停を申し立て不成立になりましたので、訴訟を提起しました。判決が下され、Aさんに認められた慰謝料額は、金50万円というものでした。
納得のいかない左右田弁護士は、幸田朗弁護士に尋ねたものです。
「私は、あんなに努力して、Bさんから満額の500万円もの支払約束を取り付けたのに、何故、Aさんはその額で納得しなかったのでしょうか?」
「それは、Aさんがわれわれに慰謝料請求を頼んできたのは、必ずしもBさんから、お金を取ることが目的ではなかったんだよ。あまり左右田君が凄腕なもので、請求額満額を取ってしまったために、依頼の目的が達せられなかったんじゃないの?」
「交渉が下手だったのですか?」
「そうじゃないよ、交渉の目的は、Bさんから慰謝料を請求するという名目で、妻を寝とられた亭主の意地を見せることであり、慰謝料額500万円は、交渉の目標とすべき額だったかも知れないね。交渉目的を金銭の獲得に置いた、のがまずかったのかも知れないな。
ところで、その後、A夫人はどうなったの?」
「A夫妻は別れました。BさんもA夫人とは切れたようです。私は、何をしたんですかね。骨折り損のくたびれ儲けだった、だけか・・・交渉は難しい」とため息三斗の左右田弁護士でした。
慰謝料は精神的損害を、金銭に評価したものなので、財産的損害とは異なります。金額が多くなれば、精神的損害が満たされるというものでもないからです。慰謝料請求の交渉は、依頼人の目的が必ずしも、金銭を獲得することではないのです。最終的には、解決金を獲得して交渉妥結なのですが、その前にもう一つ、交渉の目的があったのです。
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